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東京高等裁判所 平成7年(行コ)65号 判決

東京都港区六本木二丁目三番九号

控訴人

株式会社ユーザーズソフト

右代表者代表取締役

外山弘道

東京都港区西麻布三丁目三番五号

被控訴人

麻布税務署長 浦川譲

右指定代理人

小濱浩庸

信太勲

鈴木福夫

木上律子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成五年五月三一日付でした次の各処分を取り消す。

(一) 控訴人の平成二年八月一日から平成三年七月三一日までの事業年度(以下「平成三年七月期」という。)の法人税についての更正のうち、所得金額一六三万九四八五円、納付すべき税額三七万三九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

(二) 控訴人の平成三年八月一日から平成四年七月三一日までの事業年度(以下「平成四年七月期」といい、平成三年七月期とあわせて「本件係争事業年度」という。)の法人税についての更正のうち、所得金額二六九万一〇七八円、納付すべき税額七〇万九一〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  当事者双方の主張は、次の二を付加するほかは原判決「第二 事案の概要」(原判決二枚目表六行目から九枚目表終わりより三行目まで)と同一であるから、これを引用する。

二  控訴人の当審における主張

控訴人の主張は、別紙「控訴の理由」のとおりであるが、その要旨は、

「(一)役員の退職給与引当金を損金の額に算入できないとの解釈に基づき、役員の退職給与引当金の損金の額への算入を認めないことは、控訴人のような小規模の会社では、役員に対する十分な退職給与の支給が制限されることになり、憲法の保障する基本的人権を侵害するものである。(二)将来の役員の退職給与に充てるために、一定程度の税金を負担したうえで蓄積したものから役員の退職給与を支払うことは、役員の退職給与の額が妥当であれば、損金処理できるものを、税負担して支払うことになり、これは二重課税である。」というものである。

第三証拠

証拠関係は、原審訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求をいずれも棄却すべきであると判断するものであるが、その理由は、原判決「第三 争点に対する判断」(原判決九枚目表末行から一三枚目裏二行目まで)と同一であるから、これを引用する。

二  控訴人の当審における主張も採用することができないものであることは、以上に説示するところから明らかであるというべきであるが、役員の退職給与引当金は、法人税法二二条三項二号に規定する確定した債務に該当しないこと及び同条三項にいう「別段の定め」に該当する規定もないことから損金の額に算入されないものであり、このことは会社の規模の大小によって異なるものではない。そして、役員の退職給与引当金を損金の額に算入できないと解することは、役員の退職給与の額を制限することになるものではないから、かかる制限のあることを前提とする違憲の主張はその前提を欠くものというべきであり、また、法人において益金を税負担したうえで蓄積し役員の退職給与を支給することによって、二重の課税を受けることになるものではないから、控訴人の主張は採用することができない。

三  よって、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柴田保幸 裁判官 小林亘 裁判官 伊藤紘基)

控訴の理由

四人か五人の会社で、一事業年度の収入で一人の退職金を赤字を出さずに支給することは不可能である。

「功労の程度を客観的に判断することは必ずしも容易ではない」との理由で、役員の退職給与引当金の全額を益金として処理すべきと判決しているが、容易ではないからとして、基準も議論せずに全額を益金処理せよというのは、怠慢ではないか。

当社では、一事業年度において利益がでた場合のみ、退職給与引当金を発生させている。当然、税金をゼロにするような引当金はしていない。各事業年度の利益が、すなわち、その役員の功労を諮るものさしではないか。

判決で「一定程度の租税負担をした上で蓄積したものから役員の退職金を支払え」と言っているが、役員の退職金が妥当であれば、損金処理であるものを、なぜ租税負担をして支払わなければならないのか。これは二重課税になる。

また、租税負担をしてどれほどの退職金の準備ができるものなのか、裁判官は知らな過ぎる。

現実問題を無視した法人税法の条文の解釈で、役員に支給可能な退職金の額を制限することは、憲法で保証されている基本的人権の侵害以外のなにものでもない。

よって、ここに控訴する。

平成七年五月三十日

控訴人 株式会社ユーザーズソフト

右代表取締役 外山弘道

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